大判例

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東京高等裁判所 昭和26年(う)2187号 判決

職権をもつて原判示第一事実認定の当否を按ずるに、麻薬取締法第四条第三号にいわゆる所持とは、一定の人が同条所定の麻薬を事実上支配する立場にある場合をいうものであることは疑のないところであるが、その所持は右麻薬に対する実力支配関係が相当時間持続される場合をいうものと解すべきである。ところで原判決挙示の各証拠を綜合すると、被告人は昭和二十五年五月九日予て知合の間柄である川原和雄から、警視庁(東京都)保安部衛生課に勤務する司法警察員警部補町田正を単に麻薬購入の目的で大阪から上京して来たものであるといつて紹介されたが、麻薬が欲しいという右町田の申出を信じ、即日人を以て、予てから知合の間柄である朝鮮人李根海に麻薬を探してくれるように依頼し、李は被告人の依頼により、翌五月十日午後三時半頃、原判示の麻薬(二袋入り約一〇〇四七瓦)を原判示被告人方へ届けて来たので、被告人は李と町田とを直接会わせて取引をさせては、右取引による自己の利益が少くなることをおそれた結果、被告人方階下八畳間において、李から右二袋の麻薬を受け取るとすぐそれを二階八畳間に待たせておいた町田のところへ持つて行つて同人に見せたところ、同人はそれを受け取り、七十五万円とかで買うというので、被告人は少しでも麻薬の売り値を値切つて自己の利益を殖やそうと思い、階下で待つている李のところへ降りて行き、「客が買うことにきまつたから」と言つたが、そのとき、被告人及び李の両名は被告人に続いて二階から降りて来た町田に逮捕されたことを認めることができる。そして、右麻薬取引の当事者が李(売主)と町田(買主)であつて、被告人(売主)と町田(買主)でなかつたことは以上の説明で明らかになつた事実と原審第四回公判調書中証人町田正の供述として「自分は内田を通じて取引した」という趣旨の記載があることに徴して明白である。されば、以上の情況によつて考えて見ると、被告人が原判示被告人方の階下から二階へ持つて上つて町田に見せた際の右麻薬に対する実力支配関係は依然李が持つて居り、被告人は右取引によつて利益を得る目的があつたとはいうもののただ、李のために右階下から二階へ該麻薬を持ち運んで町田に引き渡し、李と町田との取引に便宜を与えたのに止まるものと見るべきであるから、かかる、被告人の行為は李の麻薬譲渡未遂の幇助(麻薬取締法第四条第三号、第五十七条第一項、第六十二条、刑法第六十二条第一項参照)とはなり得ても、前記法条にいわゆる所持ということはできないものと解すべきであろう。

果して然らば原判決には刑事訴訟法第三百八十二条にいわゆる事実の誤認があつてその誤認が判決に影響を及ぼすことが明らかであるというべく、もし然らずとするも、原判決の認定事実とその証拠との間には同法第三百七十八条第四号にいわゆる判決の理由にくいちがいがあることに帰着するのであるから、本件各控訴の趣意に対する判断を為すまでもなく、原判決は破棄を免がれざるものである。

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